理学部数学科の学部or修士の人の就活についての感想

 

この記事は、私の周りの数学科の人間の就活についてのただの感想文であり、その他の人たちには何の参考にもならないかも知れない。特に、部活やアルバイトをPRしたいと思っている人は回れ右して、アレナビやそれナビなどの記事を見る方が良いと思う。

 

 

数学科に進学すると…就職やばいの?

 

「数学科って、芸術系の次に自殺率が高いんだよ?進学して大丈夫?(笑)それに就職先もあまりないし。」

 

 

 

私が数学科に大学進学しようと考えたときに、母校の化学科教諭に真っ先に言われたのがこの言葉だった。当時は、他人の意見にまったく興味を持てなかったので、「へぇ、そうなんですねぇ。」と言ってさらっと流していた。

 

自殺率が高いのどうかは調べていないのでなんとも言えないのだが、就職先がない…これは違うと断言できる。少なくとも、数学科在籍ということが、就職活動に置いてデメリットになることは一切ないと思う。伝統的には、IT(プログラマーやソフトウェアエンジニア、昨今ではデータサイエンティストなど)や金融(アクチュアリークオンツ)が数学科の就職先として挙げられ、コンサルティング会社に就職する人も増えており、就職先がないということはない。*1もちろん給料も平均よりはだいぶ上だと思う。しかしだからと言って他の就活生(特に非数学科就活生)に比べて優位に進めていけるかは、コミュ力()が重要だと思う。

 

 

 

クオンツアクチュアリー、データサイエンティスト、エンジニアなどの職業の場合は数学の素養がある人が多く、採用活動にもそういった人が登場してくるので、意外と研究については話しやすいと思う。実際、フーリエ解析について話したところ、理解してくれる人も多かった。特に金融系はわかってくれる人が多い。*2学部で習う多様体フーリエ解析、確率統計などは何となく知ってるという感じだろうか。工学部の定期試験で出題される数学の問題を参考書を見ながらであれば解けるくらいを想定しておけば良いと思う。

 

 

自分の研究内容を素人にもわかりやすく説明することができればあまり問題はないと思われるが、自分のやってる研究が専門外の人から見るとあまりにも抽象的すぎるため、わかりやすく説明することが難しかったり、その分野の研究をある程度理解していないと研究の意義を理解させることが難解な場合もあると思われる。

 

 

 

私の知人で、力学系の分野でLorentz flowについて研究している人物がいた。彼の分野では、天候のモデルとして用いられている微分方程式を解析することが必要なのだが、現実の物理現象とリンクしているため、研究の内容を素人に対しても説明しやすく、ウケはよかったと言っていた。日常生活で遭遇する事象と関係ある事柄であれば物理現象もイメージしやすいので、天気予報について数学的に研究しているというのは面接でうまくいきやすいだろう。こういった物理と関係ある分野の場合、研究内容だけでなく、研究動機や研究手法までもわかりやすく説明しやすいのでアドだと思う。

 

 

 

一方で、トロピカル幾何学圏論など、純粋数学の中でもだいぶ抽象的な分野を専攻していると、面接で説明するのに苦労したようだ。実際、トロピカル幾何*3を専攻した知人によると、「それって一体なんの役に立つのか?」と言われることもしばしばあったようだ。こういった基礎分野は専門外の人間からは「役に立つor立たない」の軸で語られがちであり、数学科の人間も現実社会への応用を念頭に置いて勉強or研究をしているわけではないということも相まって、うまく研究の必要性や魅力を説明できないことが多い。

 

 

こういう場合は、研究の話はそこそこに、研究で培ったメタスキルをアピールするのが常套手段だと思われる。研究遂行能力が会社に入った時にどう役立てるかを説明すると良い。実際、こっちは結構詳しく聞かれる。私が聞かれたのは、「解けない問題に出会ったとき、どうやって解決してきましたか?」というもので、オーソドックスといえばオーソドックスな質問だったと思う。

 

あと、余談だけど愛想や見た目、所作は大事。他の理系の人たちはこういった「他人からどう見られているか」ということを考えるのが苦手な人が多いので、ちょっと気をつけるだけで、他の学生よりもだいぶ印象が良くなる。*4

 

ここまでは、数学科にも就職先はちゃんとあり、それなりの苦労はあるにせよ、悲観する必要もないという話をしてきた。その一方で、人前に出て自分の学生時代の経験を喋るのが苦手*5という人は、理系が就職に有利、経済状況が良くなってきたと言われる昨今においても、希望する企業の内定を得るのは難しいらしい。そこまで就職難易度が高くなければその限りではないが。私の周りでも、うまく喋れず苦労している人はいた。ゼミ発表で本来人前で話す訓練はしこたまやっているはずだが、それとは別種の困難があるらしい。*6同期を捕まえて練習しまくるしかない。

 

あと、大学のキャリア支援課は理系就活のノウハウがない*7ので、ITや金融の専門職向けの研究アピールみたいなことを彼彼女らに相談しても、「難しいことやってるね。ところで部活とかアルバイトとかはどんなことやってた?」みたいな展開になる。というか俺はなった。というか文理問わずあまりよくわかってないのではないかというそもそも論はここではしない。

 

ITや金融が多いように思うけどそこ以外には就職してないの?

 

確かに金融やIT企業への就職実績は豊富であり、最近ではコンサル、官公庁、メーカーなどでも採用実績が増えているが、前者に比べればまだ少ない(?)と思われる。とりわけ、食品や消費財など、目に見えるものを売っている企業への就職実績は少ないと思われる。

 

これは数学科が不利ということではなく、単純な興味関心の問題だと思う。

 

「IT企業や金融へ就職する人が多い」というのは、この間院生室で議論になったテーマで、数学科(純粋数学専攻)の人間は実体のあるモノにほとんど興味がない人が多いからなのではないかという結論になった。

 

ここで「いや、お前さっき物理がどうとか日常生活がどうとか言ってただろこのすっとこどっこい調子に乗るなはなたれ小僧。」という読者もいるかもしれない。もちろん、物理や生物学、化学反応など実体のあるモノを対象に考察した、数式や問題設定を考える場合も多くあるが、数学以外の場合は、具体的な事物を対象に考察し、一般がどうなっているのか分析するのに対し、数学の場合は、ある性質を持った図形や写像などの数学的対象の振る舞い一般を分析することを念頭に置いているため、実はアプローチの仕方が逆なのである。そういった意味で、数学徒は具体的な現象そのものよりも、数式やモデル、もっと言えば言語で記述された体系を詳しく調べることに興味関心が向いており、その興味を満たしやすいのが先に述べたような職種なのではないだろうか。

 

システムを自分で構築し運用することは、 コンサルや官公庁でも求められるスキルだし、興味を持つ人がいるのもわかる気がする。

 

 

 以上が数学科にいて就活をした人間の雑感である。

 

 

 

 

 

 

 

*1:数学科かどうかよりも、数学科がある大学は偏差値が高い大学なので、結局就活では学歴が効いているだけだという批判はあると思う。

*2:もちろん、ここでいう「わかっている」は、数学科のゼミで発表するレベルということではなく、数式から何となく物理現象を思い浮かべることができたり、計算したらそうなりそう、というイメージが持てるくらいのことである。逆にそういったイメージを持たせるように会話を誘導することができれば良いとも言える。

*3:実数の全体Rにトロピカル演算と呼ばれる特別な演算を導入した、代数幾何学の一分野。詳しくはhttp://www.math.sci.hokudai.ac.jp/~ishikawa/tropical/ishikawa-tropical07.pdf を参照してみてほしい。

*4:男子学生は自分の見た目に気をつけない人が女子学生よりも多いように感じた。鏡を見て、髪がはねてないか、ネクタイは緩んでいないかなどをチェックするだけなのでそこまで負担はない。正直くだらないとは思うが、面接の際に注意された人が私の知人にいた。変なところで減点されたくはないだろう。

*5:面接で上がってしまうというレベルではなく、「自己PRは?」と聞かれて何も喋れなくなってしまう人がいるのを聞いた。

*6:ゼミ発表の方が数百倍は怖いというのが多くの人間の感想だと思う。

*7:重要な情報は研究室や学科にだけ流れてくる。また、リクナビマイナビといった企業紹介しかやっていないサイトを見ても無意味だと思う。