数学科は一体何をしているのか..........

[Abstract]

この記事では、数学科に所属している私が他学科によく聞かれる「数学科って何やってるの?」という質問に対する僕なりの考えを書いてみた。数学科(私が純粋数学専攻なのでそのことを念頭に置いている。)と他の理系学科との違いを主に書いている。主に数学以外の理系の方向け。

 

[本文]

まず、数学科がどのように見られているか考えてみる。google検索で「数学科」と打ち込んで、以下のようなキャッチーなものがあった。これを踏み台にして考えていきたい。

 

matome.naver.jp

 

corobuzz.com

 

リンクを貼ったサイトに書かれていることは大部分が極端な話だと思うが、「一冊の教科書を120時間かける」というtweetがあるけど、これはある

 

 

一般に、数学科生は、読んでる教科書にもよるが、1日1ページ進むか進まないかという日もあるくらい読むのが遅い。

 

 

(極端な話ではあるが、知り合いの心理学博士過程の院生に「教科書とか論文ってどれくらい読んだ?」と聞いたところ、「修士の頃は論文を一年で50報は読んだなあ」と言っていた。普通の数学科修士過程の人がこれをやるのは不可能だろう。)

 

 

数学科とそれ以外の学科では論文や教科書の読むスピードが概ね異なる。これには理由があって、数学の場合、高校の頃の教科書のように行間がきちんと埋められていないということと、専門用語が抽象的すぎて理解しがたい、ということが挙げられる。

 

 

前半の行間が埋められていないというのを具体例で考えてみる。例えば、以下のように教科書では記述されていたとする。

 

 

よって、{w_k}はL^2のコーシー列となる。したがって、

 

あるw ¥in L^2 ; w_k ¥to w in L^2.

 

となる。

 (堤誉志雄著 偏微分方程式論p56より引用)

 

ここでは、コーシー列だから収束して、収束先がL^2内に存在すると述べているわけだけども、「なぜ収束するのか、なぜ収束先がL^2内にあるのか」という説明が抜けている(本来この部分は読者が説明できなければならない)。

 

 

 

証明の最中の主張と主張の間にある論理の飛躍を「行間」というが、これに気づいて説明できるようになるためにいろんな本を参考にしたり具体例を考えたりなどをしているとあっという間に時間過ぎてしまう。

 

 

 

ここでは数学では教科書の行間に隠されている主張をきちんと説明することが重要だと述べた。一方、「きちんと」説明するからには、使われる用語は厳密に定義されている必要がある。

 

 

 

そこで、後半の定義の厳密さと抽象度の高さについては今度の記事で述べていきたい。

 

 

  •  おまけ

本文で紹介するのが面倒になってしまったので、あとはQ&A形式で答える。

 

Q.数学科の人って好きな素数ってあるんでしょ?

A.ない。何か特定の素数が気に入っている人は、数学科と言うより情報系など応用系の人たちに多い気がする。数学科の場合、特定の素数というより素数一般が持っている性質に興味があると思う。

 

Q.「n杯飲めてn+1杯飲めないわけがない、はい帰納法」って飲み会のコールあるんでしょ?

A.ない。そもそもn杯飲めてもn+1杯飲めるとは限らない。ちなみに、飲み会において「俺酒加算回飲めるから」というのは実際聞いたことある。どこにでも勇者はいるものである。

 

Q.「写真撮るとき、1+1は〜?」って聞かれて定義不足とか言っちゃうんでしょ?

A.ない。というかピースしてくれない。ちなみに、学内で移動中に石につまづいたとき、「こんなところに特異点があったか。」と言った知人はいた。

 

Q.ベクトルを太字で書かないの?

A.僕は気づいたら太字で書いてなかった。太字で書かない教科書は多い。

 

Q.数学科の人って5次元とか見えるんでしょ?

A.大半の人間には見えないが、一部見える人はいるらしい。私の指導教員の話であれば、博論提出直前は忙しすぎて4次元まで見えたらしい。他にも代数幾何のある教員に研究の話を聞きに行ったら、「4次元までなら見えるんですけどね〜5次元はちょっとね。。。(笑)」と言っていた。わけわからん。ちなみに、この教員は「微分幾何とか位相幾何の問題の多くは代数幾何に帰着されるんだよね。だから代数幾何以外いらなくね(笑)」みたいなことを言っていた気がする。ちびりそうになった。さすがにいるだろ。

 

 

 

こうしてみてみると、数学科以外の人間がこの手の神話を作り出しているのではないかと思えてきた。